その手が象る世界

 木製の画架に乗せられたキャンパスに描かれていたのは、鮮やかな蒼い花と金色の髪の少女だった。
 風に舞う花片を追っているのか、それとも解き放とうとしているのか。後ろ姿の彼女はたった一人、蒼いリプアラの花が咲き乱れる場所に立ち、白い肌をさらした両腕で空を抱いている。
 長い髪は羽のようだと思った。光を灯して波打ったそれは、彼女を簡単に風に乗せて、天空の彼方へと連れ去ってしまいそうな軽快さだ。
 とても綺麗。
 ソフィアは思わず溜息を着いた。
 この少女のような儚さは自分にはないものだ。自分の髪が濃い色のせいか、ソフィアは金色の髪に特に憧れていた。
 そんなに黒い髪が嫌なら何色にでも染めればいいとリゼルは言うけれど、彼は乙女心というものを分かっていない。大体、「嫌」というのも違う。自分にはなく決して手に入らないものだからこそ、こんなにも焦がれるのだ。そして憧憬そのものが、心を幸せに満たすというのに。
「——その絵が気に入ったのかね?」
 突然、ソフィアの耳に男の声が降って湧いた。
 我に返ったソフィアは、最上の笑みをもって肯定を返した。テーブルを挟んだ目の前に話し相手が座っていたことを忘れるほど、夢中になって絵を鑑賞していたらしい。招待主を忘れるなんてどうかしている。ソフィアは自分の無礼さを恥じながら、出された紅茶に手をつけた。
 声をかけた男のほうはというと、ソフィアの態度や胸中などには興味を示さない様子で腕を組み、椅子の背もたれにべったりと寄りかかっていた。彼は屋敷の主。サーディン・エクリスという名の魔術師で、リゼルの父親である。
 ソフィアが招かれたのは、リゼルの子供時代の遊戯部屋だった。今となっては本来の主が訪れることも殆どなく、サーディンの趣味の部屋として使われているらしい。
 室内はとても明るく、開放的だ。
 全体は材質を問わず、薄い色の家具で統一されている。壁の片側に大きく張られた窓はよく磨かれており、遮光のための窓掛けが取り払われていた。それらの佇まいが故郷の宮殿にあるお気に入りの温室を思わせたので、ソフィアの顔は自然にほころんだ。