密室の窓

セレスターラ西宮殿の奥に隠された部屋があることは、限られた者にしか知られていなかった。天の陽から薄布で守られた白い密室。どこか危うさをたたえた静謐の中に、彼女は長いこと一人で残されていた。ここへに呼ばれてどのくらい経つのか。時を計る術はない。
喉が渇く。長い緊張は身体の硬直をもたらし、少しでも動かせば軋みそうで、うつむくことすら容易ではない。息苦しさを紛らわすために瞼を伏せていても、それが薄れるわけではなかった。
だめ、震えてはいけない。臆してはならない。
誰にも、この動揺を気取られることだけは避けなければ。常に毅然たる態度を取るべきなのだと、幾度思い知らされてきたことか。「あの方」との関係が露見してしまったら、今まで犠牲にしてきた思いが全て無駄になってしまう。
私も、あの方も、破滅だ。
そう強く思い直し、また瞳に深い青の光が戻る。

女性と呼ぶにはやや幼さを残す容貌の彼女は、名をサーシャといった。貴族としては決して有力な家柄の出身ではなく、普段から彼女が身につけている装飾品はどれも豪奢なものではない。しかしそれが返って生来の華やかさを際立たせていた。
しなやかな亜麻色の髪は冠のように僅かな光を含み、その金色が煌く度に人々は振り返った。この国に彼女を知らぬ貴公子はいないとまで言わしめるまでの不思議な存在感をもちあわせている。地方貴族ウィスタリア子爵の令嬢サーシャ・ウィスタリアは、そんな特別な娘だった。
そんな彼女だったから、興味本位で求婚するものは後を絶たなかった。彼女が国王の新たな愛人と——婚約者となるまでは。
しかし最近になって、彼女には他に思い人がいるのではないかという噂が、宮廷でまことしやかに囁かれていた。国王という婚約者がありながら他人と通じるなど許されない。王国ばかりか創造神アーティアに背くことである。それを利用して身分の低い家柄出身の彼女を失脚させようとする者たちがいるのは当然のことだった。
サーシャ自身、それはよく分かっていた。だからこそ、誰になにを聞かれても自分の思いは口にしないと決めていた。常に無口で無表情、腹の中で何を考えているのか分からないと陰口を叩かれても、それこそが彼女にとって「あの方」を、すなわち「思い人」を守る唯一の方法だった。